亡くなった父が、生前よく口にしていた言葉があります。
「製造業が身の丈以上の事務所を作ると、その年がピークになる」
若い頃の私は、「そんなことはないだろう」と思っていました。
立派な事務所は会社の成長の証であり、社員の誇りにもなる。
むしろ良いことではないかと。
しかし、年齢を重ね、さまざまな会社の栄枯盛衰を見てきた今、この言葉の重みを実感しています。
まず、事務所を新築するタイミングは、多くの場合「業績が良いとき」
受注が増え、利益が出て、「この先もいける」と感じるからこそ大きな投資に踏み切る。
しかし、景気や受注環境は必ず変化するもの。
完成した頃がちょうどピークで、その後は徐々に下降線に入る・・・、そんなケースを何度も見てきました。
さらに、立派な建物は固定費が増加する。
減価償却費や維持費、固定資産税など、売上に関係なく毎年発生するコスト。
好調時には気にならなかった負担が、環境が変わった瞬間に重くのしかかる。
そして見逃せないのが「心理」の変化。
立派な事務所が完成すると、どこか満たされた気持ちになるもの。
「ここまで来た」という達成感が、知らず知らずのうちに危機感を薄れさせる。
攻める姿勢よりも守る姿勢に傾き、挑戦や改善のスピードが鈍ってしまうこともあるのではないでしょうか。
製造業の本質は、建物の立派さではなく、人と技術にあることは間違いありません。
社員一人ひとりの成長、協力会社との信頼関係、お客様への価値提供。
その積み重ねこそが、会社の持続的な発展を支えるもの。
父の言葉は、決して「事務所を建てるな」という意味ではなく、「外側に目を奪われるな」という戒めだったのだと思います。
どんな時も、身の丈を見失わず、中身を磨き続けること。
それが、長く続く会社の条件なのだと、今は素直に受け止めています。
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